−匠− A氏 昔の大工さんが建てた家の中でも、老朽化がひどくないもので基本に忠実に 建てた建物は、阪神淡路でも倒壊せずに残っていたと聞いたことが有りますが、 本当でしょうか?、素人の私たちにはよく解らないので教えてください。 B氏 海溝型地震を繰り返し経験している三陸や北海道方面の建物は、地震の規模の わりには建物倒壊の被害は少ないと思います。 積雪に耐えるために太い丸太(のもの)や太い柱を使って建てられていること と何か関係があるのでしょうか? S氏 まず阪神淡路の建物被害状況から見てみましょう。 .古い建物で開放的な住まいが倒壊多い。 .壁は土壁で筋違が入っていないもの。 .ガレージを宅内に入れ込んだ形のつくり。 .壁配置のバランスが極端に悪い建物。 .通し柱が折れている建物。 .接合部がしっかりしていれば耐えた可能性の建物。 .通し柱が4寸角以下、隅柱では2方向より胴差しの仕口また継手部分の差込みの為、断 面欠損が大きく、力が集中したため簡単に折れてしまった建物。 .柱が浮き上がってほぞがはずれてしまった建物。 .壁の少ない事にあわせて安直な仕口の施工により壊れた建物。 .梁の継手が丸太梁でさえ蟻継ぎが多く、鎌継ぎなどはほとんどみられない建物。 .築50年でも土台や柱がかなり良い物がある反面に、築25年くらいで柱は白蟻にやられ ボロボロになっている建物。 .平面剛性が無く床が大きく変形していたり、火打ちが入っていても接合方法に不備があっ た建物。 倒壊した建物には以上の様な原因があったようです。 −検証− それでは昔の腕の良い大工さんが造った建物の中で、通し柱が五寸六寸、大黒柱が八寸等の建 物はどうでしょうか。? .下記に例として検証してみます。 柱と梁.胴差(仕口)の接合部に、こみせん といわれる木のくさびが打ち込んであり、簡単 には抜けない構造となっていたり、梁の継手も複雑に刻まれて だぼ といわれる太い木のく さびで止められていて簡単には外れないつくりになっています。材料の乾燥状況も良く、強度 が均一ですね。ほぞも3寸前後と長い事も地震に有効であると考えられます。 この様に丹念に−匠−で造られた建物は、土壁の制震効果と併せて考えた場合、計算値よりも 強い建物であることが多いと考えられます。ただし老朽化(腐植菌発生)が無ければの話ですが。 また、こういった建物の耐震強度判別は熟練された診断士でなければ難しいと思われます。 近年では腕の良い大工さんは少なくなり、仕口に金物を使って建てる工法などが多いようです。 またきざみではプレカットといわれる工場での加工が多いのも現状で、ほぞの長さも5-6センチ 程度の建物が多いようですね。柱も細く、梁も米松等(外材)が多いようです。ローコスト住宅。  その不足部分を補うために、金物が必要になってきていることが理解できると思います。 コスト面+品不足で 腕の良い大工さんが厳選された良い材料で建てた建物は年々少なくなりつ つあり、残念なことです。 次回、−匠−で建てられた木造建築の補強方法に付いて、海溝型地震に耐える為にはどう補強す るか?、補強例を書きたいと思います。 −参考までに−